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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)1263号 判決 1955年6月28日

三重県志摩郡鵜方町一五八八番の一

上告人

中村就

右訴訟代理人弁護士

窪田稔

東京都目黒区下目黒西の九四七番地

被上告人

塚本閤治

右訴訟代理人弁護士

森岡三八

右当時者間の約束手形金請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和二七年一一月七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があり被上告人は上告棄却の判決を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄し本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告理由第一点について。

原判決は、上告人は被上告人から金四〇万円を利息月一割借用期間一ケ月の定めで借受け、その支払方法として本件手形を振出したこと並に右貸借に際し被上告人は貸金額の一割に相当する金四万円を一ケ月分の利息として貸金額より控除しその残額を上告人に交付したことを認定した上、その控除は約定利息の前払であるから元金四〇万円の全額について貸借は成立するとし、その支払のために振出された本件手形金全額についての被上告人の請求を認容したのである。しかし利息制限法(旧法)の制限を超過する利息を前払として元金より控除した場合に、なお元金全額について消費貸借が成立するとするためには、それが単に利息の前払というだけでは足りず、更にその控除を首肯せしめる合理的根拠を明にしなければならない。蓋し旧法上のいわゆる制限超過の利息は裁判上無効たるに止まり借主の任意に支払つた利息はこれを取戻すことをえないけれども、消費貸借の成立に際し貸主が元金より控除する利息は、消費貸借成立後に支払う利息とは異り、この部分についての元金の交付がないことによる消費貸借成立の有無が問題となるものだからである。そして制限超過の利息は本来原則として裁判上の効果を否定されるものであるから、これの元金からの控除は、たといそれが借主との合意による場合であつても、他に特別の事情のない限り裁判上その効果を否定され、この部分については消費貸借は成立しないものと解するを相当とする。(当裁判所昭和二七年(オ)第九六〇号、同二九年四月一三日判決は、制限超過利息の天引部分について消費貸借の成立を認めなかつた原判決を認容したものにすぎず、以上の判示と牴触するものではない)。

しからば右の特段の事情につき審理することなく、制限超過利息の控除部分についても消費貸借の成立を認め、これを前提として被上告人の本訴請求を認容した原判判は違法であつて論旨は理由があり、破棄を免れない。

よつてその余の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条により全員一致で主文のとおり判決する。

(裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判長裁判官井上登は退官につき、署名押印することができない。裁判官 島保)

昭和二七年(オ)第一二六七号

上告人 中村就

被上告人 塚本閤治

上告代理人窪田稔の上告理由

第一点 原判決は、上告人は被上告人から金四十万円を利息月一割、借用期間を一ケ月とする約定て借用しその支払方法として訴外伴野文三郎宛に本件手形を振出し右訴外人は保証の意味て之に裏書をした上之を被上告人に譲渡したものてあると認定した。

然れとも上告人か被告人から金借したのは昭和二十四年五月頃てあつて当時本件手形と同様の額面金四十万円の約束手形を振出し月一割の割合による一ケ月分の利息四万円と手数料金一千円合計金四万一千円を差引かれその残額金三十五万九千円を入手した。其後毎月一割の利息を支払ふと共にその都度右手形の書換へをして来たか本件手形はその最後の書換手形てあるから手形額面全額の支払義務はない。

この点に関し原審か上告人本人の供述並に乙第一号証につき証人伴野文三郎の証言に照し措信し難く他に之を確認するに足る証拠かないとしたのは証拠の認定を誤つたものてある。何となれは本件約束手形は切換手形てあるからその額面中に月一割の利息金四万円か含まれておることは明らかてある。

第二点 原判決は上告人の代物弁済の抗弁を排斥したか右は上告人か昭和二十五年九月頃被上告人に対し時価金十七万三千四百円相当の真珠製品を交付したのてあるか本件手形金債務の履行を確保するため担保として提供されたものてはなく何等の意思表示はなされておらない。上告人の意思は代物弁済の積りてあつた。現在被上告人の手に保管されておるか否かは判らない。この点につき原審か被上告人の手裡に保管されてあるから代物弁済でないと認定したのは、被上告人本人を尋問しておらないから認定の根拠かなく、事実誤認てあり、証人伴野文三郎の供述は被上告人と利害共通せるものてあるから之を採用したのは証拠認定を誤つたものてある。

又右真珠製品の一部を金一万五千円て売却した事実については、上告人は承諾を与へておらすその了解した値段て売却したものてもなく当時未払の利息に充当したことは被上告人か勝手にやつたことてあつてこの点につき右証人伴野の証言を採用したのは前記理由と同しく事実並に証拠認定を誤つたものてある。

第三点 原判決は、月賦弁済の約定か成立し其第一回分として元金内入として金二万五千円の弁済を了したとの抗弁を排斥したか上告人は昭和二十五年暮頃本件手形金の支払を月賦弁済にして貰ひたいと訴外伴野に申入れた上、その第一回分として金二万五千円を同訴外人を通し被上告人に交付した。

原審は右事実を認め乍ら、未た被上告人との間に月賦弁済の約定か成立した事実か確認されないと云ひ、右認定と抵触する前記証人伴野の証言は措信されないと認定したか前掲第一、第二点においては証人伴野の供述を措信し乍ら一連の系統をなす事実につき第三点については同証人の供述を措信しないと云ふのは矛盾も甚たしきものてあつて事実並ひに証拠の認定を誤つたものである。

以上の理由により原判決全部に対し不服てあるから上告の趣旨記載の如き判決を求めます。

以上

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